Hunnigan, Sloane and Minchin

グランドミュージカルとか映画とか

「キング・アーサー」私に必要な美

新国立劇場 中劇場 1月29日13:00/2月1日18:00 演出:オ・ルピナ)

事前の期待度は

キング・アーサーホリプロによる久々の非英語ミュージカルの輸入新作です。
フレンチミュージカルに疎いため事前情報はあまり入れておらず、アーサー王伝説も児童向け抄訳を図書館で借りた記憶はあるけど内容はさっぱり記憶から飛んでいて、それでもとにかく公開されたビジュアルとキャストの良さで楽しみにしていました。しかし公演初日は遅れ聞こえてくる評判がどうも脚本に首を傾げたような雰囲気のため微妙にテンションも落ち…さてどうだったでしょう。

キングアーサー1/29マチネキャストボード

いや、めっちゃ楽しかったです。

まず石垣を乗せた盆が回る重厚なビジュアルがいい。剣と鎧の中世騎士姿もいい。殺陣もいい。プロジェクションマッピングのデザインもいい。音楽もいい。こてこてな”ケルト風”のサウンドで味付けしたこてこてなフレンチポップロック楽曲のいい意味での軽さが新鮮。そして歌唱の殆どにダンサーが入る派手なショーアップ。芝居から歌唱に入ったと思ったらそそくさとフォーメーションに入る役者たちと展開の思い切りの良さ。そういうものだと思って見たらすごくさっぱりと見られる。なるほどショーとはこんなものか。
そして脚本。正直あまり入り込まない気分で見ていたのですが、モルガンが復讐を遂げる辺りで倫理観は三人吉三かな?(唯一知ってる古典落語)と思ったら”そういうもの”というパッケージで受け止められて、普段なら飽きるような後半のラブシーン続きもいい曲だなぁと飽きずに見られてしまいました。意外。

 

そして2回目追加することに。

キングアーサー2/1ソワレキャストボード

(グィネヴィア以外一緒ですね)
今度はストーリーもしっかり楽しんでスタオベ。
あくまでグィネヴィアの浮気が本筋。政治劇ではなく、皆が愛と呼んでるのは各々の孤独や不安や虚栄心を埋める何か。そんな自他含めた人間の愚かさを飲み込み人間性ごと己を律し王となった男の子の物語、という受け取り方に自然に落ち着いて大変満足でした。その決意の時にマーリンを呼び子供のように泣きじゃくる姿がよかったな…。ラストシーンのこの結末へ至るまでを音楽が上手くガイドしていったところといい、演出が上手くハマっていた作品でした。

 

とはいえ、一つイケてないかな…と思ったのがモルガンとアーサーの間の「先代の罪をどう今の世代が背負うのか」みたいなことをやろうとしてるにも見える点。新しい作品らしいテーマを扱うのかなと思ったらそこは先代の罪→に対する復讐を→どう許すのかというワンクッション挟んだ話になっていて、楽をしたなぁ…という心地は否めませんでした。落とせてはいるけど掘り下げもしないんですね。

キャストについて

一番印象深かったのはグィネヴィアの宮澤佐江さんでした。メレアガンに怯える演技が印象的で彼女の求めた愛情が恐怖心を埋めるためのものでしかなかったという見方が全体に繋がって納得感のある浮気(?)に。なんか気付いたらグィネヴィア自体好きになっていましたね。

それから佇まいの良さが極まっていたのがガヴェインの小林亮太さん。2.5作品出身の俳優さんは若くてもキャラの組み立てがしっかりしていることが多く、ガヴェインも例に外れず少ないセリフでしっかり役割と感情を感じさせてくれるところが素敵でした。

また楽しみにしていた伊礼さんのメレアガンと安蘭さんのモルガン、ショーアップがハマりきっていて満足度を上げてくれました。

欧州ミュージカルの輸入をもっと

というわけで大いに楽しんだのですが、私にとって今回一番価値があるなぁと感じたのは欧州ミュージカルの新作を宝塚とは離れた制作で、レミゼのような素に近いメイクや装飾的でない衣装の”耽美ではない”方向性で作られたことですね。そして楽曲もとても新鮮。私は2013年以降のミュージカルファンなのでフランスとウィーンと欧州ミュージカルの受容がいろいろあった時代を知らないので(主に2012年まではあったようですね)その点だけでこれが見たかった!とはっきり言える。

この流れがまだまだ続いてくれることを祈ります。