Hunnigan, Sloane and Minchin

グランドミュージカルとか映画とか

「ファンタスティックス」こどもたちの世界は二子玉

(シアタークリエ 11月4日18:30回 演出:上田一豪)

大変素敵でした。
心が16歳になって劇場を出たので素敵な場所でコーヒーを飲みたくて仕方なかったが有楽町まで戻ったらやかましくてときめきも消えていた。若い時間は儚い。

 

あらすじは以下の通り(公式サイトより引用)

隣同士に住んでいる若いマット(岡宮来夢)とルイーザ(豊原江理佳)は、恋人同士。ルイーザの父・ベロミー(今拓哉)とマットの父・ハックルビー(斎藤司)が仲を引き裂こうと築いた壁越しに、二人は日々語らい、将来を誓い合っている。そこへ現れたのは、怪しげな流れ者のエル・ガヨ(愛月ひかる)、老俳優のヘンリー(青山達三)、旅芸人のモーティマー(山根良顕)。彼らの秘密の企みによって、幸せだったはずの二人の関係は少しずつ変化していって……

これは、誰もが経験する、恋と、人生の、ほろ苦い物語。

シアタークリエ ミュージカル『The Fantasticks』

 

楽曲も脚本も古典らしいあっさりした作りだけど、ピピンが如きメタな仕掛け満載で進みいささかのトンチキ感を乗せながら真摯に若い二人の恋と人生を見守るお話で大変に良かったです。あこがれを運ぶ教養は全部シェイクスピア

また今回二子玉川おしゃれスポットみたいなほっこりしたセットも目玉と言えましょう。演出の上田さんの劇団Tiptopの雰囲気もあるのかな。終演後撮影タイムもあり大変楽しめました。バンドは見えているし演者も後ろにずっと控えて状況を見守っている雰囲気も楽しく、舞台上に出しっぱなしの小道具を狂言回しエル・ガヨが手際よく使ってまたかっこよさを引き立てていて…全部楽しかった。

 

事前に音源で聴いてたルイーザのソプラノ、実際踊りもついてほんとにヤバかったですね…。タイタニックで3人のケイトの一人を演じてた豊原さん可愛らしくて地に足をつけようのない不安定を抱えた女の子姿が見事でした。

愛月さんのエル・ガヨさまは…あの…大変なものを見てしまった……決闘おかわりしたい…あんなに体張ってくれて…。合間に放つナレーションの含みも良い…一ヶ月経てば一ヶ月歳をとる…。
事前にどういった演目か調べた時エル・ガヨが今回女性と聞いてルイーザの心変わりが「青春の一時のこと」のように見えてしまったら嫌だなと思ってたけど、決してそうはならない作りに仕上がっています。エル・ガヨが途中からつける”髭”が示すものも性別かもしれないし“ルイーザの考える悪さ”の象徴にも見えて最後まで性別不明。見事でした。
場面としてはあとルイーザがエル・ガヨに詰め寄ったのに見つめ返されて何も言えなくなるとこが楽しすぎて…オペラグラス忘れなくてよかったです…。

旅芸人二人とエル・ガヨのシーンもめちゃ好き…役者根性と共に年老いたあんな感じの老人に弱いのです。マットはピピンよりひどい目に遭っててびっくりした…あすこの演出他のカンパニーはどうやってるんですかね。影絵楽しい。

 

さて全体的に良かったのですが、マットとルイーザのラストシーンだけは唐突でぼんやり感じました。あすこで彼らがお互いに言う「辛かった」「寂しかった」はもしかして元々脚本上「父(元海軍)の重圧」と「母の不在の不安」に繋がっていたのではなかろうか…となるともうちょっと踏み込んでほしかった気もします。そもそもパパたち一見ひたすら無毒化されてるので…。

世界に対し自分を誇示したり特別だと思わずにはやっていられない怯え。”安全な外の世界”としてその怯えのまま走り出てしまうのを和らげたのがエル・ガヨの役目だったのかな。

どこまでも優しい、(優しすぎて誰も傷つかない仕上がりになってしまいがちまである…)上田さんの演出にぴったりな作品でした。